大学の選択と集中について

 2023年9月1日、国際卓越研究大学の認定候補に東北大学が選ばれた。国際卓越研究大学の制度は、「国公私の設置形態にかかわらず、世界と伍する研究大学となる
ポテンシャルのある大学を認定し、大学ファンドによる助成等、総合的な支援を行う」ものである。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230901/k10014180611000.html

この大学ファンドによる支援額は10兆円にも及ぶ相当な額である。こうした制度を設けた背景は、大学の資金力不足による研究力が低下しているのを改善するためと説明される。実際に世界大学ランキング(QS World University Rankings)の結果を見ると確かに研究力は低くなっていると言わざるを得ない。2013/2014年と2023/2024年の上位5校を比較したのが以下の通りである。

  2013年 2023年
東京大 32位 29位
京都大 35位 46位
大阪大 55位 80位
東京工業大 66位 91位
東北大 75位 113位

こうした凋落は上位校に止まらない。ニュースにて報道されることは少ないがこの大学ランキングを200位までに広げてみると、2010年時点ではランクイン数で世界第4位であったが、現在は8位までに後退している。研究力の低下は日本の大学全体の課題なのである。そうした現状の中、国は2017年から指定国立大学法人制度、そして国際卓越研究大学制度を創設したわけである(両者の制度の違いについては割愛)。

 

 しかしこうした国の動きは、全体の底上げを図るものでなく言わば国による選択と集中なのであり、大学間の格差を広げるものである。そもそも大学の役割としては、教授と言った研究者を中心とした研究機関であると同時に、高等教育を提供する場としての教育機関である。前述したような制度は大学を研究機関として捉え、研究の質の担保を確保しようとするものであるが、これではあまりに教育機関としての視点が欠けている。特に国立大学法人には教育の機会の提供という重要な使命を持っている。1都道府県に1つ以上は国立大学法人があるのも、どこにいてもある程度の水準を持った教育が受けられるようにするというのが狙いである。そうした国立大学法人の教育の機会均等と言う役割を鑑みるに、地方の国立大学法人を切り捨てるわけにはいかない。

 

 (話の本筋からずれてしまうのだが、そうした意味で大都市圏の国立大学法人編成は見直すべきか新設すべきだと考えている。例えば東京都で法学を学ぼうと考えると東京大学一橋大学しかないことになる。しかしご存じの通り、この2つは最難関大学である。他の学問系統についても基本的に入学の難易度は高く、東京の高校生の大半は私立大学を目指すことになるが、私立大学は基本的に学費も高く障壁となりやすい。旧帝大が置かれている都道府県の教育系の学部についてはこうしたことに対する救済がなされていると考えている。東京であれば東京学芸大学、その他は北海道教育大学宮城教育大学愛知教育大学大阪教育大学京都教育大学兵庫教育大学奈良教育大学(奈良県国立大学法人奈良女子大学奈良教育大学しかなくその救済)、福岡教育大学がある。そうであれば、他学部についても同様にすべきではないか。

 しかし編成の見直しや新設は、少子化により大学の縮小化が進むなかでは現実的には厳しい。生徒の大学進学に対する障壁を無くすというのが目的であるのだから、やはり私立大学も含めた大学無償化や奨学金の拡充などが現実的な案であると考える。)

 

 研究力という観点で改めて見つめ直すと、大学の多様化はすなわち研究の重層化を意味する。そもそも日本は諸外国に比べ層の厚さと言う点で長けてきた。下のグラフはそれを表すものである。参考文献(https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/special/reform/wg7/20230420/shiryou1.pdf)

 横軸は各国における論文数シェア数の順位(基本的には大学のレベルと同じと考えてよい)、縦軸はその大学における論文数を示したものである。このグラフではドイツやイギリスは、上位大学に続く中位大学の割合が多い。それに対して日本は中位大学の割合が少なく、論文数シェア数の少ない大学が多数存在する。これは必ずしも研究力の低さを表すものではなく、特定分野において強みを持つ大学が多数存在することを意味し得る。

 国は世界に対しての競争力を重視する。それは社会に対してどれだけ効用性があるか、つまりはどれだけ社会に貢献するのかという観点しか見ていない。利潤追求を第一とする企業ならその理論は通じるが、研究という分野には馴染まない。現実の問題を解決する研究も重要であるが、知的好奇心を満たす研究、挑戦的な研究をしていくことも同様に研究なのである。しかし競争力を重視してばかりでは、心置きなくそうした研究は出来ない。これこそが研究力を下げていくのである。また2023年9月23日付の読売新聞には、研究費配分は広く浅くする方が効果があるといった記事が掲載された。

(https://www.yomiuri.co.jp/science/20230923-OYT1T50071/)具体的な論文の内容が分からないため、誤謬がある可能性は捨てきれないが、一つの根拠として挙げるのには十分なのではないか。

 

 と、ここまで書いてきたが、国際卓越研究大学制度の運用がされると決まった以上は仕方がない。この制度が効果あるものとして運用されているのか注視するとともに、他の国立大学法人にも助成を拡充し、研究を圧迫することのないような基盤づくりを求める。